ルネサンス期の製本について

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Feb 15
2013
Posted in blog, miracle world by Minako at 05:37 pm | No Comments »

第9回

「ルネサンス期の製本について」

光陰矢のごとし・・・早いものでもう2月になってしまいました。
2013年にいる私たちですが、ミラクルワールドではまだグーテンベルクが登場したばかり。
今年からは毎月15日と30日更新を目標に頑張ります!

今回はその後のルネサンス期のルリユールについてお話します。

 

愛書家ジャン・グロリエ、アンリ2世
まず、16世紀を代表する愛書家ジャン・グロリエ(Jean Grolier, 1479‐1565)の名を挙げる事なしに、この時代のルリユールを語ることはできません。
彼はフランスの財務官であり、イタリアのアルド一族とも交流がありました。グロリエの蔵書は約3000冊あったと言われていて、そのうちの500冊あまりのルリユールから「グロリエ様式」と呼ばれる装飾スタイルの特徴が見てとれます。
その頃にはすでにモロッコ革が使われるようになっていましたので、本の内容により色の異なる革が選ばれ、小口は天金され、見返しには羊皮紙が使われていました。ドリュールは、長方形やひし形が組み合わされた幾何学模様に、アルドスタイル(fer alde)と呼ばれる蔦模様の花型が押されています。アルドスタイルのモチーフには3種類あり、中が塗りつぶされたベタなもの(plein)、斜線の引かれたもの(azuré)、空洞になっているもの(évidé)があります(第5回参照)。

grolier
写真1:グロリエ様式

グロリエ所蔵の本には、「Io. Grolierii et amicorum.(ジャン・グロリエとその友たちへ)」というメッセージがドリュールされています。当時はまだ背にタイトルを押すことはされていませんでしたので、その代わりに表紙に本文から引用したフレーズなどが押されていました。
愛書家グロリエの装飾スタイルは、フランス国内に広まり、特に書籍・印刷産業が盛んだったリヨンにおいて多大なる影響を及ぼしました。

アンリ2世(1547-1559)の時代にも、とても美しいルリユールやドリュールがされていました。
印刷された本文からのモチーフを使用したものや、前記のグロリエ様式、プレスを利用したプレート装飾の流行などにより、贅沢な組み合わせデザインに発展していきました。
アンリ2世は寵愛していたディアンヌ・ドゥ・ポワチエにも豪華にルリユールされた本を贈っていますが、そこにはふたりのイニシャルHDを組み合わせたものも押されています。
背が平らで、コワフの部分が表紙の高さよりも飛び出ているビザンチン製本(reliure alla greca)になっているものもあります。

henri2
写真2:プレート組み合わせ装飾(アンリ2世)

スメ様式
スメ様式(reliure au semé)と呼ばれるスタイルは、紋章やイニシャルを連続的に規則正しく配置したデザインです。
レイアウトが同じで、使用するモチーフのみを変えれば何通りもの異なるパターンを作ることが可能でしたので、当時の職人たちにはさぞ重宝したことでしょう。

au seme
写真3:スメ様式(シャルル9世)

ファンファール様式
ルネサンス期の装飾スタイルには、らせん模様が多用され、製本のみならず、刺繍やレース、宝石彫金細工、金具細工にまで及んでいます。
ルリユールでは、ファンファール様式(reliure à la fanfare)という、近接した2本線と少し離れた1本の線で構成される3本線(filets à l'ancienne)で囲みを作り、渦巻き模様や唐草模様でその間を埋め、中央部分には本の持ち主の紋章やイニシャルを押すデザインが登場しました。

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写真4:E.ロフェによるファンファール様式

この装飾スタイルを誰が最初にルリユールに施すようになったのかは定かではありませんが、当時出版された本に、このようなモチーフの甲冑を身にまとった人物を描いた版画があり、それを見た職人が「これ、ステキ。ドリュールの模様にしようっと。」と思いたったのではないでしょうか。

王室御用達製本家
自らの蔵書が財産でもあった王様たちには、お抱えの製本家がいました。王室御用達製本家の称号を与えられることは、職人たちにとってはまたとないチャンスであり、多額の報酬がもらえるものでした。ルネサンス期の「王の製本家」は、フランソワ1世(1515-1547)により最初に任命されたエチエンヌ・ロフェ(Etienne Roffet, 1537-1548)を筆頭に、クロード・ドゥ・ピック(Cloude de Picques, 1548-1575)、ニコラ・イヴ(Nicolas Eve, 1575-1581)、息子のクロヴィス・イヴ(Clovis Eve, 1584-1635)と続きます。

ガイコツのルリユール
番外編(?)として、アンリ3世(1574-1589)の、風変わりなルリユールも紹介します。
彼は本を黒いモロッコ革で製本させ、ガイコツなどの死を連想させる縁起の悪いモチーフを使って銀箔押しや空押しで仕上げさせました。
それらの本は死者に捧げるために用意されていたそうですが、アンリ3世は一体何に取り憑かれていたのでしょうか・・・。

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写真5:アンリ3世、死者へ(?)のルリユール

参考文献:R. Devauchelle, 「La Reliure」
画像出典:R. Devauchelle, 「La Reliure」(写真1,2,3)
P. Alivon, 「Styles et Modèles」(写真4)
「Bibliotheca Wittockiana」(写真5)

 

 

つづく・・・。



  1. It‘s quite in here! Why not leave a response?




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