和本と読者について —レクチャーに向けて—

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Jun 12
2013
Posted in blog, miracle world by Minako at 11:31 am | No Comments »

さて、今回のミラクルワールド、いきなり問題です。「拳会角力図会」・・・さてこれはなんと読むでしょうか。


正解は「けんさらえすまいずえ」です。
日本語と言えども、このように書名をはじめ、意味のみならず読み方さえも危うい専門用語が多々あります。
6月15日のフラグム・ルリユールサロンレクチャー「活版印刷前夜 —江戸の書物と読者—」の予習として、和本に関する用語をちょっぴり見ていきたいと思います。


[和本の癒し・読者の役割]

和本とは日本でつくられた書物の総称です。
明治期、130年前に活版印刷、洋紙に洋製本となって幕を閉じるまで約1200年もの歴史があります。
和本に使用されている和紙は素材として柔らかく丈夫で、1000年の寿命が証明されています。その和本の柔らかさと、しっとり感が人を癒し、書物を愛する気持ちをはぐくむのでしょう。
そんな書物を一人の所有者で終わらずに次世代に伝えるのは読者の大事な仕事だというのが、江戸時代いっぱい続いた日本古来の基本的な考えです。
—橋口侯之介氏レジュメより—

中国や朝鮮から影響を多く受けながら、和本は漢文で書かれた巻物から平仮名で書かれた冊子本へと発展していきました。
寺子屋による読み書き能力の高まりと、貸本屋が本という共通財産を運ぶ役割を果たしていた当時、人々は読書で得た知恵や情報を交換しながら豊かな時を過ごしたことでしょう。


 [的中地本問屋(あたりやしたじほんどいや)] 板木を彫る様子


キーワード解説

・国書総目録
有史以来江戸時代末までの書籍50万点を「国書」と称して、書名の五十音順に配列した大辞典。昭和38年から岩波書店で刊行された。現在はインターネットで検索できる。

・巻子本(かんすぼん)
紙を用いたもっとも原始的な形である巻物のこと。中国から伝来した。

・折本・冊子本
巻子本を改良した書物形態として、中国で考案され、日本にもすぐに伝わった。

・宋元版(そうげんばん)
10世紀後半(宋の時代)に、中国で実質的な書物の印刷が始まった。これを宋版(そうはん)といい、和本のお手本とされた。続く元の時代も出版活動が盛んで、元版(げんばん)といい、合わせて宋元版と称する。

・丁(ちょう)
和本では頁と言わず、丁と表現し、紙一枚単位で数える。これを折りたたんで製本するので、一丁は頁二枚分になる。

・板木(はんぎ)
一丁分の文章・画を一枚の板に彫る、その板を板木という。

・開板(かいはん)
版木を彫って本を作ること。

・整版(せいはん)
一丁ごとに一枚の板を使って彫り、一冊分の版木を作る。それをバレンを用い和紙に刷る。この木版印刷の技法を整版と呼んだ。アルファベットに比して圧倒的に字数の多い日本語では、一つずつ活字を組んで印刷する活版印刷は一時行われはしたものの、主流とはならなかった。

・板株(はんかぶ・いたかぶ)
開板事業は膨大で手間のかかる作業であるため、板木は版元の財産だった。板木そのものが永くもつものなので、百年単位での増刷が可能であり、価値あるものとして売買された。これを板株といい、専門の取引市もあったらしい。

・版本(はんぼん)
印刷された書物のこと。ほとんどが木版印刷なので板本と書くこともある。また、刊本(かんぽん)ともいう。

・古活字版
文禄・慶長から寛永期(1592〜1644年)に出版された、活字を用いた活版印刷の本のこと。朝鮮半島で発達した銅製活字による印刷術が日本に伝わり、日本では一部銅製、大部分は木製の木活字を用いて印刷された。

・真名(まな)
漢字のこと。中世までは仮名は印刷に値しない文字と低く見られており、印刷はもっぱら真名で行われた。仮名入りの本は、17世紀後半になって、ようやく刊行されるようになった。

・連綿体
字が切れずに連続して書かれている草書体。連綿体を活字にしたものを連綿活字といい、古活字版の時代に用いられた。

・物之本(もののほん)
仏書・漢籍など教養書の呼称。

・草双紙(くさぞうし)
娯楽性の高い書物を草紙、あるいは双紙と呼んだ。合わせて草双紙ともいった。

・往来物(おうらいもの)
武士階級のみならず、農民・庶民階級にいたるまで、日本人の識字率は大変高く、それは寺子屋という読み書きを習う家塾が全国に多く存在したことによる。その手習いの教材に使われたのが、往来物と呼ばれる無数の入門書で、例えば、商売に必要な用語や品名を覚えられるように作られた「商売往来」といった本である。

・書物問屋(しょもつどいや)
物之本を扱った物之本屋がのちに書物問屋と呼ばれた。

・地本問屋(じほんどいや)
江戸で草紙など大衆的な読み物を売る本屋のこと。

・町版(まちはん)
本屋が開板する出版物のこと。

・私家版
出版費用を個人で負担して開板する自費出版のことを私家版あるいは私刊本といった。町版と違い、奉行書の規制対象外だったことから、自らの作品集などだけでなく、思想書なども私家版にすることにより、自由な出版が可能となった。

・写本
手書きによる書物であるが、中世だけの存在ではなく、江戸時代まで版本と同列の書物として扱われ、装訂も同じように仕立てられた。実際、江戸後期でも流通する書物の四割方は写本であった。

・官版・藩版
幕府の公的刊行物を官版(かんぱん)、各藩のそれを藩版(はんぱん)と呼んだ。

・類板(るいはん)
元版(もとはん・すでに出来ている書物、またその板株)の一部を抜き書きしたり、外題をすり替えただけの模倣書物のこと。

・重版(じゅうはん)
内容が同じものを無断で模倣して出した書物のこと。もっとも厳しく断罪された。いわゆる海賊版のこと。偽版(ぎはん)も同じ。


それではみなさま、会場(江戸)でお会いしましょう。



  1. It‘s quite in here! Why not leave a response?




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